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2005年7月25日 (月)

埼玉医大医療過誤・損賠訴訟:被告に執行猶予判決 父親、「実刑に」と訴え /埼玉

 先週末に報道された「医療過誤・訴訟」問題です。この事件は、ちょっとややこしいですし、前後関係もきちんお分からないまま語るべきでない…と思い、あえて何もかかないでおいたのですが、その後、新聞報道をいくつかみると、一言書かざるをえないと思って書きます。

 まずは、いつもと違い、記事から読んでみてください。

埼玉医大医療過誤・損賠訴訟:被告に執行猶予判決 父親、「実刑に」と訴え /埼玉
 ◇被告主治医に禁固1年6月--「ずさん医療、実刑に」執行猶予に父親訴え
 埼玉医大付属病院(毛呂山町)で00年に起きた薬剤の投与ミスによる医療事故。さいたま地裁(福崎伸一郎裁判長)は21日、業務上過失致死罪に問われた当時の主治医、田島弘被告(50)=東京都世田谷区=に禁固1年6月、執行猶予3年(求刑・禁固1年6月)の有罪判決を言い渡した。執行猶予付きの判決に、長女の真愛美さん(当時14歳)を失った父、船瀬俊介さん(55)は「ずさん極まりない医療行為で実刑であるべきだ」と訴えた。
 田島被告は同年5月1日から約1カ月、入院中の真愛美さんに栄養補給のため高カロリー輸液治療をしたが、併用が義務づけられたビタミン剤を投与しなかった。判決は「医師の間では基本的注意義務に属する初歩的なミス」と指摘し、多臓器不全で死亡させたのは「重大な過失」と認定した。
 医療事故を巡っては01年、両親が田島被告を殺人容疑で浦和地検(現さいたま地検)に刑事告訴し、同病院らを相手に損害賠償訴訟をさいたま地裁に起こした。東京高裁は昨年、病院側の多重過失を認定して賠償金約4960万円の支払いを命じ、判決が確定している。
 民事訴訟で、田島被告は「ビタミン剤は毎日投与する必要はなかった」などと一貫して過失を否認した。ところが刑事裁判の初公判では主張を一変させ「併用義務は知っていた。(指示書に)書いたつもりだった」などと陳述。初めて両親に謝罪し、民事で虚偽証言を繰り返したのは「医局の裁判対策に従った」と釈明した。判決はこの点にも触れ、「(遺族に)不信感を募らせた。病院側の体制も厳しく非難される」と指弾した。
 現在、他の病院で医師を続ける田島被告は判決後、控訴しない意向を示し「大学のためにという思いでやってきた。遺族の許しがあれば墓参りをしたい」と話した。
 一方、俊介さんと母の睦子さん(47)は閉廷後、「責任をなすり付け合い、チーム医療の体をなしていない」と同病院を非難し、「これからも娘の死を忘れず、社会のために頑張りたい」と話した。【村上尊一】
7月22日朝刊(毎日新聞) - 7月22日16時25分更新


 さて、どのような印象を受けられましたか。
 高カロリー輸液療法の際に適切な量のビタミンB1が必要不可欠なのは、一時期社会問題化したこともあり、一般の人間で知っている人は知っていると思います。それくらいですから、現時点で、こういった医療過誤が起これば、まちがいなく、刑事でも民事でも患者側が勝つことになると思います。
 ただ、00年の事故というと、丁度そのころ、高カロリー輸液療法の事故が注目を集めた時期だけに、当時の医療のスタンダードとしてはどうなんだろうと思います。それにしても、「ビタミン剤は毎日投与する必要はなかった」というのは、どういう意味なのだろうか?と考えてしまいます。

 いずれにしても、この医師は執行猶予がついたとはいえ刑事事件での有罪であり、社会的にも相当制裁を受けている印象を受けます。もちろん、14歳の娘さんを失ったご両親の悲しみは、それで償われることはないと思います。特に、民事裁判で、大学側がいわば嘘の主張で論陣をはった訳であり、ご両親のお怒りはごもっともです。

 それにしても、お父様の「実刑であるべきだ」という発言は、私は、酷な気がします。実刑ということは、つまり、刑務所に入れろといっているわけです。いくら犯罪的なミスとはいえ、故意でもなければ、故意に近いような状況(例えば酔っぱらい運転で交通事故を起こしたような場合です)だったわけではないように思えるからです。医療裁判の場は、真相を解明したい、とか、反省させ今後こういうことが起こらないようにさせたい…というものであるべきと思っています。単なる「仕返し」に過ぎない制裁は、いかがなものかと思います。
 むしろ、「制裁」より、この医師の医師としての再教育とか、あるいは適正評価といったものはきちんとなされたのだろうか、という気もします。
 繰り返しになりますが、なにしろ、状況を知らないで、勝手なことは言えませんが。こんなことは、新聞記事を二次的に読んだだけで、判断すべきことではないでしょう。

 さて、そういう状況でありながら、敢えてここでこの記事をとりあえげた理由をここから書きます。

 この記事を読んで、気になったのが、14歳で高カロリー輸液をしなくてはならない状況です。そこでこの記事をネット上で検索したところ、他のページではこういうことが書いてありました(いずれも、真偽は不明。色々な記事に書かれてあることをつなぎ合わせたのみです)。

● この少女は統合失調症の昏迷状態にあったため高カロリー輸液療法を受けている。
● 民事訴訟の判決では、向精神薬の副作用で発熱や意識障害が起きる「悪性症候群」になり多器臓不全で死亡したとされている。
● この主治医は医師としての臨床経験は約20年、精神科としての経験は1年
● この少女の父親は「買ってはいけない」の著書で知られる評論家船瀬俊介氏である。

 特に2番目には困惑します。確かに、抗精神薬(この場合こちらの方の字がより正確なはず、上の「向精神薬」は記事のママ)から多臓器不全が起こり死に至る場合はあります。記事をどこまで信じて良いのか分からなくなりますが、14歳の少女が統合失調症で昏迷状態にあり、抗精神薬を大量に投与され、しかも高カロリー輸液を受けなければならないほど、昏迷状態が続いているという状況は、極めて極めて希な状況です。そもそも14歳の少女の統合失調症がめずらしい上に、統合失調症の昏迷状態も最近では珍しいですし、高カロリー輸液を受けなくてはならないほど昏迷状態が続く(しかも抗精神薬が入っていて)というのは、なおのこと珍しい。つまり、珍しいの3乗くらいです。
 精神科1年目だとすれば、1つ1つの「珍しい」が全て初体験のはずです。そういう状況で、精神科1年目のベテラン医師が担当する状況がちょっと分かりにくいです(ちなみに、埼玉医大はもともと毛呂病院という精神病院が発展してできが病院で、典型的な新設校の1つです)。そもそも、他科で20年近い経験があり、大学病院の精神科で1年目からやり直すというのも、余り聞かない話です。
 
 私が何を言いたいかというと、こういう色々な難しい背景を聞くと、単純に「医療過誤」という範疇だけで、この事件をとらえることが実に困難であるということです。そして、それにもかかわらず、この事件を強引に「医療過誤」だけで読ませようとして、様々な情報を敢えて出さないようにしている、これが今のマスコミのやり方(マスコミ全体というのは大げさかもしれませんが、特に、この毎日新聞の記事が一番、不親切というか、誘導的です。しかも、署名記事ですよ!)ということです。

 再三、繰り返しますが、記事だけで、色々と判断するのは不適切だと思いますが、少なくとも、マスコミが偏向報道を行っていると言うことだけは、明らかではないでしょうか。

 今、まっとうな大人として問われているのは、マスコミリテラシーだと思います。また、まっとうな先進国にある「高級紙」のないわが国の現状が大変残念です(一般に、欧米では、ワシントンポストのような地域限定で、比較的限られた層が読み、主張が明確で部数の少ない「高級紙」と、そうでない「イエローペーパー」に分かれます。日本の新聞の多くは、この中間であり、両者の良いところをとっているとも、悪いところをとっているとも言えます。ただ、高級紙がないことで、健全な知的階層が育ちにくい、ということは言えるように思います)。
 署名記事で、こんな杜撰な記事が許されているようでは、日本にまともな知性が育ちにくいのもやむを得ないという、少し寂しい気持ちになりました。

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コメント

今日、初めてこの文章を読ませていただきました。考えさせられるところ大でした。ありがとうございます。
ただ、おこがましいのですが、一つだけ指摘させてください。抗精神病薬と向精神薬は共に普通に使われる言葉です。抗精神病薬は統合失調症治療薬(いわゆるメジャートランキライザー)でその他に向精神薬は抗不安薬や睡眠導入剤、抗うつ剤も含めて精神科で使う薬です。悪性症候群を起こすのは抗精神病薬ですが、向精神薬には抗精神病薬も含まれますので、記事の表現は間違いとは言えないと思います。
5年も前の文章ですから既にご存知かもしれないし、大した問題ではないのに指摘するのは失礼かなとも思ったのですが、念のためにコメントさせてもらいました。ご無礼をお許し下さい。

投稿: | 2010年9月28日 (火) 18時54分

 メッセージ&ご指摘ありがとうございます。
 改めて読むと、ご指摘の通り、記事は間違いとはいえないですね。
 ただ、あえて字の訂正を行ったのは、おそらく、向精神薬と抗精神薬を区別しないで記事を書いているようなマスコミの無責任さを言いたかったのだろうと思います。
 自分がこうした記事を書いたことすら、忘れておりました。自分の文章にも間違いがあったので修正しておきました。

投稿: 藤井賢 | 2010年9月28日 (火) 19時36分

この 医師は、虚偽が多い。Brainも マムシで固めている。彼の父は、北埼病院(精神科)の理事長。通称あほくさい病院。
事件には、白い巨頭の関与がいなめない。
彼は、現在 この病院をつぎ、変わらぬことを合法的に し続ける。地元の警察署長らとともに…。
根は、呆れるほど深い。S 52頃か、それ以前。彼には、家出(失踪)・自殺未遂の験がある。署長とは それ以来の付き合い。この頃より、反社会性(現在の社会)へ傾倒してゆく。14才だった彼女は、医師達への人身御供であらう。
氷山の一欠けらだ。

投稿: | 2012年7月29日 (日) 11時29分

この事件を図書館のドキュメンタリーで見た限りでは、セレネースで悪性症候群になったにも関わらず、さらに追加投与した為死亡された事故のようでした。その後、電解質うんぬんで報道されましたが、看護師に責任を押し付けたのかな?と。これが本当なら、セレネース投薬の間違いが原因と書いてほしい。悪性症候群は国家試験レベルで分かります。→国家試験問題集の精神科に載っています。

投稿: あらべすく | 2013年6月 3日 (月) 21時02分

当時、私は精神病院を、退院したばかりで、酷い目にあったと今でも、心が折れそうです。精神病院では、患者は、家畜以下の扱いで、それは、酷いものでした。亡くなられた娘さんが、可哀想でなりませんでした。心から、ご冥福を、お祈りいたします。

投稿: 田辺靖子 | 2017年2月 6日 (月) 21時04分

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